【第3章】3 作業標準の作成と周知②
3-2 作業標準(作業手順書)の作成
1) 作成・決裁
対象となる作業を行うチームのリーダーを中心に、メンバー全員又は作業担当者が素案を作ります。
作成した手順で実際に作業を行い、必要があれば修正します。
修正後の素案を直属の上司に提出し、以降決裁権者(作業標準の内容を決定できる者)が事業者として承認して正式なものになります。
注)仮に手順書もなく現場の作業者の裁量で作業が行われてトラブルが起こったとしても、事業者が「作業内容を知らなかった」とか「そんなことは命令していない」と抗弁することは出来ません。全ての作業は事業者の命令かつ監督下で行われるべきものなので、裁量に任せるということで事業者の責任が減ることはないということです。
2) 対象作業
一口に「作業」といっても、事業場内には数えきれない作業があります。一体どれに関して作業標準や作業手順書を作ればいいのか迷うところですが、はっきりしているのは以下の二つです。
①予め危険が予測される作業
・被災した際けがの程度が大きいことが予測される機械、工具、材料等を取り扱う作業
・過去に災害やヒヤリハットがあった作業
・その他リスクの大きい作業(非定常作業を含む)
②頻度の高い作業
・リスクの大きさにかかわらず、より多く行う作業
従って、作業グループごとに一日の作業の中から対象作業を選び出し、優先順位をつけて作成していくことになります。
3) 範囲
一つの作業標準や作業手順書でどこからどこまでをまとめるのか、つまりタイトルをどうするかということも問題です。常識的に「ビル建設工事」や「給食を作る」という手順書は無さそうですが、「配線工事」という手順書はあるのか、「カレーを作る」というのはどうか、などの疑問が生じます。
このことについて特に法的な決まりも、普遍的なセオリーもありませんが、実際に全体の作業を部分的・要素的に考えるとだいたい見当がつきます。つまり、ビル全体の「配線工事」では大変な時間と量になりさらに小さい単位、例えば「照明器具取付工事」や「分電盤取付工事」といった単位にすべきでしょうし、「カレーを作る」というのはちょうどよさそうな単位のようです。また、献立が卵焼きとカレーだからといって、「卵焼きとカレーを作る」という作業手順書は作れそうもありませんし、作ってもあまり役に立ちそうにありません。(ただし、実際には一人が同時進行していてトラブルを起こすケースもありうるので、手順書作成以外の手段・手法による管理も必要となる場合があります)
もっと小さくして「野菜を準備する」とか「野菜を切る」となってしまうと、これも手順書というには細かすぎるということがわかります。
作業手順を考える際のやや専門的な用語として、「単位作業」とか「まとまり作業」という表現も使われることがあります。
「照明器具取付工事」の場合「作業台の設置」「照明器具の搬入」「照明器具の取り付け」「配管」「配線」「結線」などの各作業を「単位作業」と呼び、それらをまとめた「照明器具配線工事」を「まとまり作業」と呼ぶ要領です。
また、例えば「照明器具の取り付け」という作業で
①作業台に上がる
②照明器具を受け取る
③照明器具を支える
④照明器具を固定する
⑤作業台から降りる
のような作業の切れ目ごとのくくりを「作業のステップ」や単に「手順」と呼びます。
なお、ステップ(手順)をどの程度にまとめるかは、業務内容や作業手順書の目的によって異なります。
例えば「野菜を切る」とするのか、「玉ねぎを切る」「ジャガイモを切る」と分けるべきなのかは、一概に言えません。ベテランの作業者にとって「野菜を切る」と書いておけばカレー用の具材を選択して適度な大きさに切ってくれるとしても、初めての作業者には一体どの野菜を何で切るのか、どういった大きさに切るのかわからないかもしれません。
一般的には、作業手順書はある程度(数年)の職務経験のある人を対象として作られることが多いので、「ピーマンを切る」や「玉ねぎを切る」、「釘を打つ」や「ビス止めをする」といった基本作業は、通常の作業手順書の手順としては含まれないことが多いようです。それは、対象となる職場の作業者に一定水準の認識と技術が備わっており、個人的なバラツキが発生しないだろうということを前提としているからです。
注)この基本的な作業を「要素作業」と呼び単位作業と区別することもあります。
4) 様式・項目
「作業標準書」や「作業手順書」は、特に決まった様式はありません。
項目についても、法令や各種規格で規定されている事項などを除き、作業の目的に沿って決めます。
一般的な項目としては次のような例があります。
・作業名
・適用範囲
・作業目的
・作業時期、作業場所
・使用する材料、部品
・使用する設備、工具、機器
・作業者(所属、役職)
・管理者(所属、役職)
・必要となる資格・技能
・作業区分(準備作業・本作業・後作業)
・作業の手順、やり方、作業のステップ
・品質、安全上で注意すべき事項、急所
・異常時の処置
・危険性又は有害性、リスクの見積り、対策、対策後のリスクの見積り
5) 作成手順
① 作業名を決める
② 作業区分ごとに、「手順」を検討し決定する
③ 手順ごとに「急所」を検討し、決定する
④ 担当者を決定する(A・B等)
⑤ 手順ごとにリスクアセスメントを実施し、必要により手順や急所等を修正する。
⑥ 様式に記入・完成する
出来るだけ作業グループ全員で、対象作業について作業手順の検討・確認をし、一定の様式にまとめる機会を持ちます。
いきなり様式に記入していくと順番の入れ替えや内容の修正が面倒なので、付箋紙(ポストイット)などを使って、一つ一つの案を記入していきます。
① まず「準備作業」はどういったことが必要か、思いついたことをメンバーに発言してもらい、付箋紙に記入していきます。
② 出尽くしたところで内容と順番を検討し、必要な修正を行ったうえで台紙に順番に並べます。
③ 次に「本作業」、「後(始末)作業」と、同じように進めていきます。
④ 「手順」がひととおり出来たら、それぞれの「手順」での「急所」について、同じ要領で検討・記入していきます。
必要により、「担当者」を決め、「リスクアセスメント」を実施して清書します。
※「手順」一つごと、又は「準備作業」「本作業」「後(始末)作業」ごとに急所を検討するのも一つの方法です。
6) 作業手順書の活用
新たに作業標準や作業手順書を作成した場合及び変更した場合は、必ず対象作業者・作業チームに周知徹底する機会を設けるとともに、ムリ・ムダ・ムラなどがないか定期的にチェックします。
また、対象者がいつでも確認できるようにしておきます。
7)作業手順書の改善
万一事故や災害が発生すれば、作業手順書の内容に災害が起こりうる問題はなかったのか、速やかに検討し必要があれば作業方法や作業手順を修正しなければなりません。また、事故や災害が発生しなくても、設備を更新したり作業方法が変わったりしたときなど、予期せぬ事故や災害が発生しないように注意し、作業手順書の見直しを行うことも大切です。
当然「品質」や「効率」など生産性にかかわる改善も視野に入れて、作業手順の見直しは随時必要です。
「これで完璧」と言える作業手順書は無く、手順を改善する活動に終わりはありません。
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