【第4章】第5節 救急処置⑤
4.気道異物
1)気道異物による窒息
気道異物による窒息とは、たとえば食事中に食べ物で気道が完全に詰 まって息ができなくなった状態です。死に至ることも少なくありません。窒息による死亡を減らすために、まず大切なことは窒息を予防することです。飲み込む力が弱った高齢 者などでは食べ物を細かくきざむなど工夫しましょう。食事中にむせたら、口の中の食べ物を吐き出してください。
異物が気道に入っても、咳ができる間は気道は完全には詰まっていません。強い咳により自力で排出できることもあります。救助者は大声で助けを求めたうえで、できるだけ強く咳をするよう促してください。状態が悪化して咳ができなくなった場合には、窒息としての迅速な対応が必要です。
もし窒息への対応が途中でわからなくなったら、119番通報をすると電話を通してあなたが行うべきことを指導してくれますので、落ち着いて指示に従ってください。
2)窒息の発見
適切な対処の第一歩は、まず窒息に気がつくことです。苦しそう、顔色が悪い、 声が出せない、息ができないなどがあれば窒息しているかもしれません。このよう な場合には”喉が詰まったの?”と尋ねます。声が出せず、うなずくようであれば ただちに気道異物への対処を行わなければなりません。
気道異物により窒息を起こすと、自然に親指と人差し指で喉をつかむ仕草(図 28)をすることがあり、これを「窒息のサイン」と呼びます。この仕草をみたら周囲の救助者は異物除去の手順を行ってください。また、傷病者は窒息したことを言葉で周りに伝えることはできないので、この仕草で知らせましょう。
3)119番通報と異物除去
(1)反応がある場合
窒息と判断すれば、ただちに119番通報を誰かに依頼した後に、腹部突上げや背部叩打を試みます。腹部突き上げと背部叩打は、その場の状況に応じてやりやすい方法を実施してかまいませんが、1つの方法を数度繰り返しても効果がなければ、もう1つの方法に切り替えてください。異物が取れるか反応がなくなるまで、2つの方法を数度ずつ繰り返して続けます。なお、明らかに妊娠していると思われる女性や高度な肥満者には腹部突き上げは行いません。背部叩打のみを行います。
●腹部突き上げ法
救助者は傷病者の後ろにまわり、ウエスト付近に手を回します。一方の手で臍の位置を確認し、もう一方の手で握りこぶしをつくって親指側を傷病者の臍の上方でみぞおちより十分下方に当てます。臍を確認した手で握りこぶしを握り、すばやく手前上方に向かって圧迫するように突き上げます(図29)。傷病者が小児の場合は 救助者がひざまずくと、ウエスト付近に手を回しやすくなります(図30)。 腹部突き上げを実施した場合は、腹部の内臓をいためる可能性があるため、異物除去後は、救急隊にそのことを伝えるか、すみやかに医師の診察を受けさせることを忘れてはなりません。119番通報する前に異物が取れた場合でも、医師の診察は必要です。
●背部叩打法
立っている、または座っている傷病者では図31のように、傷病者の後方から手のひらの基部(手掌基部)で左右の肩甲骨の中間あたりを力強くたたきます。
(2)反応がなくなった場合
傷病者がぐったりして反応がなくなった場合は、心 停止に対する心肺蘇生の手順を開始します。まだ通報していなければ119番通報を行い、近くにAEDがあれば、それを持ってくるよう近くにいる人に依頼します。
心肺蘇生を行っている途中で異物が見えた場合は、それを取り除きます。見えない場合には、やみくもに口の中に指を入れて探らないでください。また異物を探すために胸骨圧迫を長く中断しないでください。
【参考】ファーストエイド
急な病気やけがをした人を助けるためにとる最初の行動をファーストエイドといいます。救急隊が到着するまでの間や医師などにみてもらうまでの間にファーストエイドを行うことによってその悪化を防ぐことが期待できます。特別な資格をもたない市民でも比較的安全に実施することができますが、そのために119番通報や医療機関への受診が遅れないようにしましょう。
(以下項目のみ掲載。詳細は厚労省「救急蘇生法の指針2015」を参照してください)
1 傷病者の体位と移動
2 気管支喘息発作
3 アナフィラキシー
4 低血糖
5 けいれん
6 熱中症
7 低体温症
8 凍傷
9 すり傷、切り傷
10 出血
11 捻挫、打ち身(打撲)、骨折
12 首の安静
13 やけど
14 歯の損傷
15 毒物
16 溺水
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