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【第2章】第4節 電気使用設備⑤

【災害事例に学ぶ】

「天井クレーンでプレス機械の金型を移動させようとして感電」 

①発生状況

この災害は、プレスの金型枠をつり上げた天井クレーンのワイヤーロープを握った作業者が感電したものである。

法律・政令・省令

この会社は、主に動力プレスの金型の設計・製作・修理等を行っていて、作業者Aは製作した金型の試し打ち、調整の業務などを担当している。

災害発生当日、Aと同僚Bは発注先の工場に出向き、納品した金型を動力プレスに取り付けて試し打ちを行った。

加工物の出来が良くないので、プレスから金型を取り外し、天井クレーン(つり上げ荷重2.8t)で工場内の床の上に移動させた後、金型の上型から直径約40cmの円形の枠を取り外して、クレーンでつり上げた状態で午後の休憩時間となった。

2人は出張先の事務員から差し入れされた缶ジュースを飲み始めたが、Aは目の前につり下げられた枠が目ざわりになったので、移動させようとして枠を吊っていたワイヤーロープを右手で持ち、左手でペンダントスイッチを握った。

その途端、Aは「感電した」と叫び、両手をすり合わせるような動作をしながら2、3歩動いたが、その後、膝から崩れ落ちるようにうずくまり、うつぶせに倒れた。

Bは直ちに救急車の手配をして病院に移送したが、Aは約3時間後に死亡した。

②原因

この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。

1、クレーンのペンダントスイッチに漏電していたこと

被災者の手足などに電流斑など電撃の痕跡は認められなかったが、事故後に測定したペンダントスイッチとワイヤーロープとの間の電圧は208Vであった。

また、ペンダントスイッチを分解したところ、スイッチの金属製外枠に止めてあったアース線のビスが外れていて、スイッチの充電部から金属製外枠に漏電していために、触れた時に電撃ショックを受けた。

2、ペンダントスイッチに濡れた素手で触れたこと

電撃を受ける前の金型の取り外し作業などでは軍手をしていたので電撃を受けなかったが、感電した時点では軍手を脱ぎ缶ジュースを開けて飲んでいたことから、缶の周囲の結露や汗により手が湿った状態であったため電撃を受けたものと推定される。

3、ペンダントスイッチの点検・補修が不十分であったこと

この天井クレーンについては、年次、月例、作業開始前の検査・点検は行われていなかった。また、約6月前にはスイッチが入らなくなったため、個人経営の電気屋に依頼して修理を行ったが、このような異常がない限り定期あるいは随時に検査・点検、補修が行われていなかった。

(※最近ペンダントスイッチのカバーは樹脂製になっていますが、修理の際などの感電事例は発生しています)




「漏電していた扇風機に触れ感電」 

①発生状況

この災害は、コンクリートパイル製造工場において休憩時間中に発生したものである。

法律・政令・省令

この会社は、コンクリートパイルを製造する工場(親会社)に専属的に駐在し、コンクリートパイルの割れなどをセメントで補修する作業を行っている。

災害発生当日、作業者Aと同僚2名は親会社の従業員とともに体操を行った後、親会社の検査係と10~15分の打ち合わせを行い、通常の作業であるコンクリートパイルの補修作業を行っていた。

昼の休憩時間、Aが昼食を同僚とともに通勤用の車の中で食べた後、工場の休憩所には行かないで工場内のワイヤーロープ置場に行き、扇風機のスイッチを入れて、涼んでいた。しばらくして「アッ」という声がしたので、近くの場所で休憩していた親会社の従業員BとCが駆けつけると、Aは扇風機の脚を握って地面に座っていた。

Bが声をかけても応答がないので、Aから扇風機を離そうとして左手で扇風機の頭を押さえ、右手でAの手を持って離そうとしたところ、手に「しびれ」を感じた。

BはCに扇風機のコードを抜いてもらい、Aの右手を扇風機から離し、救急車で病院に移送したが、約1時間後に死亡が確認された。

②原因

この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。

1、扇風機が漏電していたこと

被災者を救出しようとした親会社の従業員が扇風機およびその脚に触れた時に「しびれ」を感じていることから、扇風機のケースに漏電していて電撃を受けたことが原因と考えられる。

しかし、身体に電流斑など通電の跡が見受けられないことから心室細動によるものとは断定できず、電気ショックによる死亡の可能性もある。

なお、被災者の当日およびそれ以前の健康状態については、健康診断も実施していないことから不明であるが、自称52歳という年齢、長年にわたる寮生活などから推定すると健康状態が万全でなかったことも考えられる。

2、不安全な扇風機を放置していたこと

扇風機の所有者は親会社であるが、使用目的、管理責任者が不明であり、被災者のみが休憩時間中に使用していたものである。

3、健康管理等安全衛生管理を実施していなかったこと

被災者の会社では、作業については親会社の指示を受けて作業をさせており、また、健康診断などの健康管理も実施していなかったなど労働者の安全衛生管理が不十分であった。

③対策

同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。

1、不安全な扇風機の使用などをさせないこと

親会社で他の会社の従業員が常態的に労働していて、親会社の機械設備を使用していることも多いが、親会社は貸与あるいは使用させる機械設備などについては、安全な状態に整備するか、不要なものは撤去しておくことが必要である。

なお、休憩室などを貸与する時には、その場所を特定するとともに、それ以外の場所の使用の有無を適宜確認することも必要である。

2、 安全衛生管理を行うこと

親会社などに労働者を常態的に派遣している事業者も、自らの責任において労務管理、安全衛生管理を行うことが必要であり、法定の健康診断の実施などを行うとともに、派遣先における作業の実態を把握し、安全な作業のための指示、監督を行う。

なお、休憩室、機械設備などを親会社から借用する場合には、その保守管理をいずれが行うかを明確にしておくことも必要である。

また、事業者は、配下の労働者に対して、安全衛生に関する教育を十分に行う。

 

 

 

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