【第2章】1 リスクアセスメント⑥
1-3 リスクアセスメントの進め方 実務手順(2)
(2) リスクの見積り
指針
9 リスクの見積り
(1)事業者は、リスク低減の優先度を決定するため、次に掲げる方法等により、危険性又は有害性により発生するおそれのある負傷又は疾病の重篤度及びそれらの発生の可能性の度合をそれぞれ考慮して、リスクを見積もるものとする。ただし、化学物質等による疾病については、化学物質等の有害性の度合及びばく露の量をそれぞれ考慮して見積もることができる。
ア 負傷又は疾病の重篤度とそれらが発生する可能性の度合を相対的に尺度化し、それらを縦軸と横軸とし、あらかじめ重篤度及び可能性の度合に応じてリスクが割り付けられた表を使用してリスクを見積もる方法
イ 負傷又は疾病の発生する可能性とその重篤度を一定の尺度によりそれぞれ数値化し、それらを加算又は乗算等してリスクを見積もる方法
ウ 負傷又は疾病の重篤度及びそれらが発生する可能性等を段階的に分岐していくことによりリスクを見積もる方法
リスクの見積りは事業者の意思決定のために必要となります。どのリスクにどう対応するのか、又はしないのかを、リスクの大きさによって決めていきます。従って、基本的には事業場内(あるいは同一事業者内)の各種リスクについて比較が出来れば足りるものです。
また、リスクの構成要素は「負傷又は疾病の重篤度」と「負傷又は疾病の可能性の度合」ですから、それぞれの項目でランク分けをすればリスクの大きさを定量化することが出来ます。
なお、施行通達(平成18年3月10日付け基発第0310001号「危険性又は有害性等の調査等に関する指針について」)に、解説及び具体例を掲載しています。
施行通達
(別添4)
リスク見積り方法の例
1 負傷又は疾病の重篤度
「負傷又は疾病の重篤度」については、基本的に休業日数等を尺度として使用するものであり、以下のように区分する例がある。
①致命的:死亡災害や身体の一部に永久損傷を伴うもの
②重大:休業災害(1ヶ月以上のもの)、一度に多数の被災者を伴うもの
③中程度:休業災害(1ヶ月未満のもの)、一度に複数の被災者を伴うもの
④軽度:不休災害やかすり傷程度のもの
2 負傷又は疾病の可能性の度合
「負傷又は疾病の可能性の度合」は、危険性又は有害性への接近の頻度や時間、回避の可能性等を考慮して見積もるものであり(具体的には記の9(3)参照)、以下のように区分する例がある。
①可能性が極めて高い:日常的に長時間行われる作業に伴うもので回避困難なもの
②可能性が比較的高い:日常的に行われる作業に伴うもので回避可能なもの
③可能性がある:非定常的な作業に伴うもので回避可能なもの
④可能性がほとんどない:稀にしか行われない作業に伴うもので回避可能なもの
3 リスク見積りの例
リスク見積り方法の例には、以下の例1~3のようなものがある。
「例2:数値化による方法」が最も多く使われています。例を参考に数値や優先度の区分数、定義などを事業者の実情に合ったものに作り変え、使いやすいものにしていって構いません。
以下、見積りの際の注意点についても記されていますので、確認しておきます。
指針
9 リスクの見積り
(2)事業者は、(1)の見積りに当たり、次に掲げる事項に留意するものとする。
ア 予想される負傷又は疾病の対象者及び内容を明確に予測すること。
イ 過去に実際に発生した負傷又は疾病の重篤度ではなく、最悪の状況を想定した最も重篤な負傷又は疾病の重篤度を見積もること。
ウ 負傷又は疾病の重篤度は、負傷や疾病等の種類にかかわらず、共通の尺度を使うことが望ましいことから、基本的に、負傷又は疾病による休業日数等を尺度として使用すること。
エ 有害性が立証されていない場合でも、一定の根拠がある場合は、その根拠に基づき、有害性が存在すると仮定して見積もるよう努めること。
(3)事業者は、(1)の見積りを、事業場の機械設備、作業等の特性に応じ、次に掲げる負傷又は疾病の類型ごとに行うものとする。
ア はさまれ、墜落等の物理的な作用によるもの
イ 爆発、火災等の化学物質の物理的効果によるもの
ウ 中毒等の化学物質等の有害性によるもの
エ 振動障害等の物理因子の有害性によるもの
また、その際、次に掲げる事項を考慮すること。
ア 安全装置の設置、立入禁止措置その他の労働災害防止のための機能又は方策(以下「安全機能等」という。)の信頼性及び維持能力
イ 安全機能等を無効化する又は無視する可能性
ウ 作業手順の逸脱、操作ミスその他の予見可能な意図的・非意図的な誤使用又は危険行動の可能性
9の(2)では特に重篤度の判断についての考え方に注意が必要です。
見積りの際に考慮すべき事項は、概ね災害の類型に応じて決まることから9の(3)前段で4つの類型を示しています。
指針の例では「危険に近づく頻度」と「回避の可能性」を判断基準にしていますが、9の(3)後段では主に「回避の可能性」の判断方法で着目すべき点を示しています。
ポイント
負傷又は疾病の重篤度
「過去の例ではなく最悪の状況を想定」
「休業日数等を尺度として使用」
負傷又は疾病の可能性の度合
「危険に近づく頻度」と「回避の可能性」で判断
「リスクの見積り」は「優先度の決定」のために必要ですので、「負傷又は疾病の重篤度」及び「負傷又は疾病の可能性の度合」の判定が出来たら、予め決めた基準により優先度を決定します
例ではリスクレベルの大きさ(リスクポイントの大きさ)が優先度を示しています。
優先度とはつまり対策(指針では「措置」)を実施する優先度です。
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