【第1章】1 企業経営と安全④
1-5 企業経営と安全
インターネット普及などの影響もあって労働現場での事故や災害についても以前より早く、数多く報じられるようになり、法的な責任のみならず企業の姿勢や経営方針が社会全体に問われることも多くなっています。
このことからも、労働災害の発生は直接的な経済的損失をもたらすばかりではなく、企業の社会的信用・評価の低下をもたらし、場合によってはその存続に影響を与えることも考えられます。
一方、災害防止のための経費は直接収益につながらないという考えから積極的な投資がされにくいという意見もありますが、長期的視野で企業の存続を考えるうえからも、「労働者の安全が担保されて初めて企業活動が展開できる」と考えるべきでしょう。
また、企業経営者は事業運営の最高責任者として労働安全衛生に関する方針を内外に示すとともに、それに基づいた各種施策を組織的・計画的・継続的に取り組んでいくことも重要となってきます。
冒頭にご紹介したUSスチール社の成功譚は、何よりも労働者の安全を優先した経営者と、その思いを汲み取り精励で答えた第一線の労働者があって成り立っています。100年以上を経ていますが、今後の「企業経営と安全」について考える上で、示唆に富んだエピソードと思われます。
なお、最近のアメリカの工場では「safety-first」が禁句になっているところがあるようです。その理由は、「安全」は他の項目と比較するようなものではなく担保されるべきものだから、ということです。
参考:安全対策の費用対効果(抜粋)
以下は労働省委託事業として中央労働災害防止協会が平成12年に行った調査結果です。(回答事業場の労働者数の平均数は732人)
【労働災害について】
A社のBさんは自家用車で出勤途中Cさんの車に追突してしまい、Cさんは一か月入院、Bさんも一週間入院のケガをしてしまいました。
問 Bさんは休業4日以上となりましたが、所轄の労働基準監督署に「労働者死傷病報告」をする必要があるでしょうか?
労働安全衛生法
(定義)
第二条この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一労働災害労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡することをいう。
BさんはA社の労働者ですが、「就業に係る・・・又は作業行動」に起因しているかというと、通勤は就業ではなく作業行動でもないのでこの場合は労働災害に当たらず、従って「労働者死傷病報告」の必要はありません。
一方、「労災保険」給付対象は次の4つに分かれており、このうち上記の事例は「通勤災害」に該当するので給付は受けられます。
・業務災害
・複数業務要因災害
・通勤災害
・二次健康診断等給付
★労災かくし
「故意に労働者死傷病報告を提出しないこと」又は「虚偽の内容を記載した労働者死傷病報告を所轄労働基準監督署長に提出すること」をいい、このような労災かくしは適正な労災保険給付に悪影響を与えるばかりでなく、労働災害の被災者に犠牲を強いて自己の利益を優先する行為で、労働安全衛生法第100条に違反し又は同法第120条第5号に該当することとなります。
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