交通事故発生直後の緊急対応の手引き
これまで述べてきたとおり、交通労働災害は起こさないに越したことはありません。職場全体による安全対策も非常に重要です。しかし、交通事故はどれだけ対策していても発生する可能性を0にすることはできません。令和6年度交通安全白書によると、交通事故による歩行中死者の約5割が飛び出しや信号無視といった法令違反によるものとされています。
つまり、どれだけ会社や管理者が従業員に対して交通安全対策を講じていたとしても、相手方の不注意や法令違反によって交通事故は起こり得るのです。
特に業務中に発生した交通事故は、後に大きな問題に発展することがないよう、事故直後の対応が非常に重要です。事故を起こしてしまった従業員も流れに任せた対応を行うのではなく、道路交通法の遵守は当たり前として、必要な対応に漏れがないかを確認し、問題が大きくならないよう努めるべきです。そこで、万一にも交通事故を起こしてしまった直後に役立つ知識として、「緊急対応の手引き」をまとめてみたのでご参考ください。
1.負傷者の救助と安全確保
2.警察への通報
3.相手方の確認
4.目撃者の確認
5.会社への報告
6.事故報告を受けた会社の対応
◆負傷者の救助と安全確保
まずは負傷者がいれば救急車を呼び(119番)指示に従ってください。救急車が現場に着くまでは、救急救命を行うなど負傷者の状況に応じた措置を取ります。
その後、後続車による二次的な事故を防ぐため、事故車両等を安全な場所に移動させます。また、ハザードランプを点灯する、発煙筒を置くといった危険回避措置を取り、後続車に事故が起きたことを知らせると同時に周囲の安全確保をします。事故直後はパニックになりがちですが、負傷者の救助と安全確保が最優先事項だと覚えておきましょう。
事故直後に絶対にしてはいけないこと
事故直後に絶対にしてはいけないことは、その場から立ち去ってしまうことです。その場から立ち去ってしまうと、刑事上の責任(道路交通法違反など)、行政上の責任(運転免許証の取り消しなど)、民事上の責任(損害賠償責任など)がそれぞれ重くなり、その後の人生を左右するほど大きな責任を負うことになりかねません。特に刑事上の責任は重く、救護義務違反として「10年以下の懲役又は100万円以下の罰金」が課せられる可能性があります。 何から手を付けていいかわからなくなってしまった場合は、とにかく警察への通報、そして会社への報告をし、冷静な第三者から自分は今何をすべきか指示してもらってください。
◆警察への通報
事故後、現場から警察への通報(110番)は必ず行いましょう。負傷者がいなかった、事故の規模が小さかった等は関係なく、交通事故を起こした際は警察に必ず届け出なければならないと、道路交通法72条に義務付けられています。また、警察への届け出をしていないと、後に必要となる「交通事故証明書」を発行してもらえなくなってしまいます。 警察が到着すると、当事者の立ち会いによる実況見分が行われるので指示に従いましょう。
交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。同項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置(第七十五条の二十三第一項及び第三項において「交通事故発生日時等」という。)を報告しなければならない。
◆相手方の確認
警察が到着するまでの間、もしくは実況見分の終了後、相手方が大きな負傷などしていないようであれば氏名や住所などを確認します。相手方にとっても必要な情報になるため、名刺を交換する、双方が免許証を携帯電話などで撮影するのも良い方法です。
確認すべき主な項目は以下のとおりです。
□氏名□住所
□生年月日
□連絡先
□勤務先
□車両の登録番号
□車両の損傷場所
□ケガの状況
□加入している保険会社名
また、その場で慰謝料や損害賠償の約束といった示談行為は絶対にしてはいけません。
相手から請求を受けたり、約束を求められたりした場合であっても、「職場(もしくは保険会社)と相談してから連絡します」とだけ伝えましょう。
◆目撃者の確認
周囲に目撃者がいれば、氏名と連絡先を確認しておきましょう。後日、相手方との示談や調停・裁判といった法的手続きにまで発展した場合、重要な証拠になる可能性があります。 ただし、交通事故の目撃証言は善意で行うものにすぎません。目撃者には法律で定められた義務はなにもないため、あくまでお願い程度に留めておくことが重要です。 また、ドライブレコーダーを設置しておくと事故の様子が動画によって記録され、事故の瞬間の状況などがわかります。この記録は裁判での証拠となるケースもあります。
◆会社への報告
警察による実況見分と相手方・目撃者の確認が終わったら、次は会社に報告しましょう。 事故を起こしたのが社用車であれば、会社の保険を利用することになります。後日、報告書を作成し、保険会社に提出することになるため、事故状況(怪我人の有無・車の破損など)や時系列に起きた事実をメモ書きしておくと記憶違いの防止に繋がります。
事故直後は必ず病院へ
すべての報告が完了したら、その日か翌日には病院へ行き診察を受けましょう。怪我がなかったとしても事故直後は気持ちの動揺があるため、後になって痛み出すケースはめずらしくありません。何もなくても病院へ行き、医師に異常がないか確認してもらうのが大切です。
また診療費の支払いは、業務災害・通勤災害であると告げ、一旦猶予してもらいましょう。
◆事故報告を受けた会社の対応
事故報告を受けた会社は、可能であれば交通事故を起こした従業員のサポートができるよう、誰かを現場に向かわせるのも手です。交通事故を起こした従業員は、まず間違いなくパニック状態に陥っている可能性が高いです。とはいえ、事故の切迫具合やどれだけ急いでも到着には時間を要することからも、電話で最低限の確認は行ってください。最も重要なのは「負傷者の救助と安全確保」です。被害状況をこれ以上大きくしないためにも、従業員からの第一報が事故直後であれば、負傷者の救助と安全確保を最優先で指示しましょう。
事故後のフォローアップ
可能であれば当日、難しければ近日中に当事者である従業員から事故状況を確認し、保険会社に対応してもらうための報告書を準備、加入している保険会社に連絡します。
車両に修理が必要であれば、修理の手配、特殊な営業車両等の場合は、代替車の手配など、必要な調整を行いましょう。また、事故状況から従業員の過失についておおまかな判断もしなければなりません。従業員側の過失が大きい加害事故である場合は、相手方への謝罪の実施についても検討します。ただし、相手方に対する謝罪については対応が非常に難しいことからも、社内で判断できない場合は、弁護士といった専門家への相談も視野に入れましょう。
事故後の対応は遅れれば遅れるほど非難の的となります。迅速な行動ができるよう、あらかじめ事故後の対応をマニュアル化しておくなど、可能な対策を講じておくことが大切です。
※参考サイト
内閣府:令和6年版交通安全白書 陸上交通国土交通省:運行管理者の方向け 「緊急時における適切な対応」
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