メニューボタン

企業における交通事故防止のあり方

現代においては、どのような業種であっても企業活動を行ううえで乗用車やトラックなど車両の利用が欠かせないことがほとんどです。しかし従業員が業務中に事故を起こした場合、管理をする企業側は、直接的にはもちろん間接的にもその責任を問われることは、これまでの内容からもご理解いただけたと思います。

実際には運輸・運送関係の専門業種とそれ以外の業種では、車両の運行に関係する法律や許認可に伴う制約・監督官庁の違いなどもありますので、ここでは主に一般業種を念頭にした交通事故防止、ひいては交通労働災害防止について見ていきたいと思います。

まず、道路交通法による事故防止対策のうち、一定規模の企業などがその対象となる「安全運転管理者」制度による対策です。 安全対策の一つとして、安全運転管理を実施しておかなければ、取引先はもちろん、社会への信用問題にもかかわってきます。きちんとしたルールを構築し、リスクマネジメントを行っていく必要があります。

◆道路交通法で定められた安全運転管理者の選任制度

事業所における安全運転管理徹底のため、道路交通法(道交法)第74条において、一定台数の自動車の使用者は、使用の本拠地ごとに「安全運転管理者」及びそれを補助する「副安全運転管理者」を選任して公安委員会に届けることが定められています。

道路交通法 第七十四条の三
自動車の使用者(道路運送法の規定による自動車運送事業者(貨物自動車運送事業法(平成元年法律第八十三号)の規定による貨物軽自動車運送事業を経営する者を除く。以下同じ。)及び貨物利用運送事業法の規定による第二種貨物利用運送事業を経営する者を除く。以下この条において同じ。)は、内閣府令で定める台数以上の自動車の使用の本拠ごとに、年齢、自動車の運転の管理の経験その他について内閣府令で定める要件を備える者のうちから、次項の業務を行う者として、安全運転管理者を選任しなければならない。
2 安全運転管理者は、自動車の安全な運転を確保するために必要な当該使用者の業務に従事する運転者に対して行う交通安全教育その他自動車の安全な運転に必要な業務(自動車の装置の整備に関する業務を除く。第七十五条の二の二第一項において同じ。)で内閣府令で定めるものを行わなければならない。

安全運転管理者等の選任の基準(道路交通法施行規則第九条の八)
安全運転管理者等の選任の基準(道路交通法施行規則第九条の八)

(大阪府警察HPより抜粋)

安全運転管理者等の資格要件(道路交通法施行規則第九条の九)
安全運転管理者等の資格要件(道路交通法施行規則第九条の九)

(大阪府警察HPより抜粋)

安全運転管理者となった者に対し、従業員の交通安全教育や自動車の安全運転確保に必要な業務を遂行してもらうために、必要な権限および組織上の位置づけが欠かせません。従業員が管理者の方針に従うためにも、企業が必要な権限を与えなければならないことが道交法により決められています。実際に、安全運転管理者が担う業務は以下のような事柄となります。

安全運転管理者の業務(道路交通法施行規則第九条の一〇)
  • 1.運転者の適性等の把握

    自動車の運転についての運転者の適性、知識、技能や運転者が道路交通法等の規定を守っているか把握するための措置をとること

  • 2.運行計画の作成

    運転者の過労運転の防止、その他安全な運転を確保するために自動車の運行計画を作成すること

  • 3.交替運転者の配置

    長距離運転又は夜間運転となる場合、疲労等により安全な運転ができないおそれがあるときは交替するための運転者を配置すること

  • 4.異常気象時等の措置

    異常な気象・天災その他の理由により、安全な運転の確保に支障が生ずるおそれがあるときは、安全確保に必要な指示や措置を講ずること

  • 5.点呼と日常点検

    運転しようとする従業員(運転者)に対して点呼等を行い、日常点検整備の実施及び飲酒、疲労、病気等により正常な運転ができないおそれの有無を確認し、安全な運転を確保するために必要な指示を与えること

  • 6.酒気帯びの有無の確認

    運転前後の運転者に対し、酒気帯びの有無について当該運転者の状態を目視等で確認するほか、アルコール検知器を用いて、確認を行うこと

  • 7.酒気帯びの有無の確認の記録保存・アルコール検知器の常時有効保持

    酒気帯びの有無の確認内容を記録し、一年間保存するとともに、アルコール検知器を常時有効に保持すること

  • 8.運転日誌の備付け

    運転の状況を把握するため必要な事項を記録する日誌を備え付け、運転を終了した運転者に記録させること

  • 9.安全運転指導

    運転者に対し、「交通安全教育指針」に基づく教育のほか、自動車の運転に関する技能・知識その他安全な運転を確保するため必要な事項について指導を行うこと


※参考サイト

警視庁:安全運転管理者等法定講習 安全運転管理者の業務


このように安全運転管理者の担う役割は大きいのですが、会社によっては安全運転管理者が専任ではない場合(他の業務との兼務)も考えられますし、実質的にどの程度の権限が与えられているのか、企業としてどれほど力を入れているのか、経営層を含むトップマネジメントの体制が整っているのか等々、個々の企業で差があるのが実情です。

具体的な取り組み体制においても、次のような形で行っている企業が多く、安全管理が徹底しているとはいえないようです。

  • 運転倫理などの教育を、安全運転週間など、期間を区切ったキャンペーン形式で行う
  • 組織的にヒューマンエラー防止策に取り組むのではなく、ドライバー個人の裁量に任せる部分が多い
  • 継続的にしっかりとした取り組みを行うまでには至らない

こういった状況から一歩踏み込むためには、次の3点の要件を満たす必要があります。
1. 運転モラルの形成
交通法規の遵守に努め、事故防止の観点から慎重に運転する姿勢づくり
2. ヒューマンエラー防止能力の形成
運転中に起こるであろう危険を予測し、回避する術を学ぶ
交通ヒヤリマップの作成等
3. これらを継続して行う企業体制の充実
企業側が1、2の教育を行う体制づくりに努める。安全管理委員会を社内に設置することも検討すべき
これらを基礎として、必要な教育活動を実施し交通安全風土を社内に根づかせる必要があるのです。

◆安全運転教育の対象者と実施時期

安全教育が重点的に行われるのは入社時や事故が起こったときが多いのですが、入社から退社まで定期的にプログラムを実施すべきです。新人の時には慎重に安全対策を心がけていた社員も、慣れとともに油断する傾向にあります。

加えて安全運転教育は、時とともにその効果の薄れが指摘されています。加齢に伴う身体能力や判断力の低下も想定されますから、その時々、年齢に応じた教育プログラムの実際が不可欠となります。入社時のほか、5年目、10年目など節目節目で教育の機会を設けましょう。

また、業務にかかわる運転をするのは、正社員だけとは限りません。契約社員や協力会社の社員など、それぞれの業務内容に応じて教育対象を広げる必要があります。次の表に、その留意点をまとめました。


教育・管理内容の8のポイント
【運転モラルの形成】
  • 運転モラルは安全運転に欠かせない要素だが、それだけでは不十分だと心得る
  • ドライバーに漠然とした安全意識を持たせない
  • 事故のときの制裁は、事故防止の観点からのもので、抑制のためのインセンティブとしてはならない→経営者が事故リスクをドライバーに転嫁しているとみなされ、ドライバーの企業に対する忠誠心や帰属意識が薄れる原因に
  • 上記のような理由からも制裁については慎重に考える
【ヒューマンエラー防止能力の養成】
  • 技能の未熟は適切な安全確認で補強できるというスタンスをとる
  • 技能向上ではなく、安全運転フローの習慣化が目的だと理解すること
  • リスク実態に即した具体的なヒューマンエラー防止策を策定、ドライバーへの実践を指示
  • ヒューマンエラー防止策について、最新のデータ・状況を反映、更新
教育・管理手法の7のポイント
  • 管理者とドライバーのコミュニケーションを通じ、対策の共有・浸透を図る
  • 共感を呼び起こすように、管理者のコミュニケーション能力を向上させる
  • 何を実現するための安全運転フローなのか、実践する意義をドライバーに正しく理解させる→スローガンでなく、実例などで実践的に示す
  • 管理者の安全運転教育実践度を定量化、定期的にチェック
  • 事故件数だけでなく安全運転教育の実践度でも評価し、全社管理する
  • 事故を起こした者への適性見極め、改善目標を作成する
  • 事故多発事業所対策では、マネジメント対策中心に行う
教育・管理内容の4のポイント
  • 経営層の関与とリーダーシップの確保
  • 運転業務を本業の重要な業務の一部と明確化
  • 企業としての方針、目標の明確化
  • 社有車の管理体制・適用ルールを整備、責任部署の一括管理下でチェック

次に、厚生労働省の交通労働災害防止に関する施策についてです。 これは業種はもちろん、規模にかかわりなく全業種全事業場が対象となっています。

◆交通労働災害防止のためのガイドライン

交通労働災害が多発し、その死亡者が全労働災害死亡者の3割を占めるといった状況に鑑み、平成6年2月労働省より「交通労働災害防止のためのガイドライン」が示され、以後平成20年と平成25年、平成30年の3度改正されて現在に至っています。

https://jta.or.jp/wp-content/themes/jta_theme/pdf/rodo/guideline201803.pdf
その項目は以下になっており、それぞれ内容が示されていますので、特に前述の安全運転管理者の選任を要しない企業・事業場においてはこちらを参考にして頂きたいと思います。


1.目的
2.交通労働災害防止のための管理体制等
3.適正な労働時間等の管理及び走行管理等
4.教育の実施等
5.交通労働災害防止に対する意識の高揚等
6.荷主・元請事業者による配慮等
7.健康管理
8.その他(異常気象等の際の措置、点検、安全装置等)


また、運転に直接携わる労働者や、管理する立場の方を対象とした教育が重要視されているところから、その実施方法について定めた要領も出されていますので是非ご参照ください。


◆社有車やマイカーの管理

ところで、社有車やマイカーについてのルール作りが徹底していない場合、事故の際に企業の責任が問われるケースがあることは先述したとおりです。そこで、社有車やマイカーの管理面において、会社として事前にとっておくべき対応をまとめてみました。

社有車について

1.社有車の私用の禁止を明確にする
ただ漠然と禁止するだけでなく、具体的な使用規程や車両管理規程を定めておくこと。社有車の運転をする必要のない者の運転は厳禁。運転をする必要がある場合でも、就業時間外の運転を禁止することなど、項目を立ててルールを作る

2.ルールを遵守するべく、従業員の指導を徹底
いくらルールを明文化しても、私用が黙認されているようでは意味がない。実際に遵守されていなければ、会社の責任が問われることにもつながるので、机上の空論とならないように。 また、社有車の鍵の管理についても、金庫に保管するか担当者が管理することを決めておく。使用時の申告、チェック、運転日誌などの記録など手続きについても決める   

3.損害賠償保険への加入
対策を取った上での残存リスク対策として

マイカー通勤について

まずはマイカー通勤を禁止するのか否か、社内で方針を決定しましょう。交通の便などからマイカー通勤を認める場合の条件についても明確にしておく必要があります。

実際にマイカー通勤を許可する場合、次のようなことを決めておくといいでしょう。

  • マイカー通勤に際し、安全運転をするなどの誓約したものを書面で提出
  • 管理者が運転手の運転技術や運転モラルをチェックしたうえで許可
  • 許可した車両には「通勤許可シール」を貼付する
  • 希望者には自動車教習所で指導を受けること認める。
  • 任意保険の加入についてもチェックしておく(対人・対物について保険金額無制限であることを条件とし、保険証書の写しを提出させるなど)
  • 任意保険等の条件を満たし、登録した車両に乗るもののみ認める
  • 車両通勤許可ステッカーの添付や、冬期の冬用タイヤ着用もしくはチェーン携帯も条件付ける
  • 毎月「点検日」を決め、抜き打ちで整備・清掃状況を検査する
  • 新規マイカー通勤者に対する教育を実施し、事故発生時の損害賠償責任や通勤災害に関しても周知しておく

他にもマイカー通勤の際の駐車場管理や、車両管理についても決めておくといいでしょう。
また、運転手の中で事故・違反歴を把握、一定の条件を超える者には安全講習の受講を義務づけることも考えておくべきです。マイカー通勤者を対象に、視力や血圧など、定期的な健康チェックをすることも大切です。

◆管理や制裁だけでなく、優良表彰制度も整備してさらなる安全運転を目指す

ルール作りを徹底することも大切ですが、やはり厳しいだけでは正しい行動につながらないという側面もあります。運転者への安全運転の意識付けを図るためには、優良運転者には職場の表彰制度を採用することも考えてみましょう。例えば短期(半年・1年)、中長期(5年、10年、30年)など期間毎に無事故・無違反の個人を表彰、賞金を付与するなど、より安全運転を目指せるような内容にすることです。

職場全体で安全意識を高めるためには、まず会社や管理者側が安全衛生方針を明確にすることからはじまります。安全運転管理は一朝一夕に実現できるものではなく、計画的に取り組むべき課題です。

安全運転管理に注力し、交通労働災害の撲滅を図るためには、それぞれの企業の実態に則した取り組み、あるいは管理体制の改善など、総合的に考える必要があるでしょう。

 

このページをシェアする

講習会をお探しですか?

 

受講者様のご希望に合わせ、以下のタイプの講習会もご用意しています

WEB講習
オンラインで会社や自宅で受講可能
出張講習
指定の会場へ講師を派遣いたします

▲ページ先頭へ