メニューボタン

労災保険の基礎知識 – 労災保険とは?

前ページ までで、労働災害の基礎知識について解説してきましたが、
では、労働災害に適用される「労災保険」とはどのような制度でしょうか?

労災保険とは、労働災害を被った労働者またはその遺族に対して迅速かつ公正な保護をするための保険制度です。
労働者災害補償保険法に基づく国の制度で、保険者は国、加入者は事業主、保険給付対象は労働者及び遺族です。国が事業主から保険料を徴収し、労働災害が発生したときに、被災労働者及び遺族に対して治療、休業補償等の保険給付が行われます。

そもそも、労働災害が起こった場合、労働者の治療費、休業補償、身体に障害が残った場合の補償、遺族補償などは、使用者に負担義務があります(労基法第75~80条)。しかし、これら全てを事業主が負担するのは、費用面からも実務上からも現実的ではありません。また、会社の倒産などによって必要な補償を受けられない被災者が出る危険性もあります。そこで、普段から保険料を徴収する保険の仕組みによって、事業主の負担軽減と被災者の迅速な救済をするための制度が労災保険なのです。

労災保険では4つの保険給付があります。

業務災害・・・労働者の業務上の負傷・疾病・障害・死亡に関する給付

通勤災害・・・労働者の通勤途上の負傷・疾病・障害・死亡に関する給付

複数業務要因災害・・・二箇所以上の事業の業務を要因とする負傷、疾病、障害又は死亡に関する給付(対象となる疾病等は、脳・心臓疾患や精神障害など)

二次健康診断等給付・・・直近の定期健康診断等で、血圧・血中脂質・血糖・腹囲またはBMIの各検査全てに異常があったとき(ただし、脳血管疾患または心臓疾患の症状を有する人は対象外)、二次健康診断と特定保健指導を現物給付として受けることができる。


なお、労働災害が第三者(労災保険の当事者である国・事業主・その労働者以外の者)の不法行為によって生じた場合は、第三者行為災害と呼ばれます。

では、仕事中に発生した死傷病の全てが業務災害と認められるのでしょうか?
例えば、社内で階段を踏み外して骨折した場合は、業務災害になります。
昼休みに会社の空き地でサッカーをしていて骨折した場合は、業務が原因ではないため、業務災害にはなりません。

しかし、この骨折が施設や管理の問題によって生じた場合は、業務災害になります。

また、退職後に中皮腫と診断を受け、在職中の石綿ばく露作業への従事期間が1年以上の場合は、業務が原因で病気になったと判断されて業務災害になります。

つまり、業務と労働者の負傷・疾病・障害・死亡との間に因果関係がある場合に、業務災害と認められます。この因果関係は、業務遂行性と業務起因性という2つの基準を中心に判断されます。

業務遂行性 使用者の支配管理下で就業している状態

業務起因性 業務と死傷病等との間に一定の因果関係があること

中皮腫などのように、仕事との因果関係について医学的評価が確立している疾病は業務上疾病と呼ばれ、一定の要件を満たし特段の反証がない限り業務災害に認定されます。

労働者の過失が原因で災害が発生した場合はどうでしょうか?

労働環境は家庭とは比較にならないほど危険度が高く、労働者は使用者の意図する生産活動に従うかぎり、常に危険にさらされています。このため、被災者や同僚の過失で発生した災害であっても、業務遂行性、業務起因性があれば、業務災害と認められます。ただし、労働者に故意や重大な過失があった場合は不支給や支給制限になることもあります。

これらの判断基準をもとに、所轄の労働基準監督署長が災害を認定します。

全ての会社に適用

労災保険は国内の全ての会社に適用されます。
労働者を1人でも使用する会社は、事業活動をはじめた時点で自動的に労災保険が強制適用されます。
ただし、暫定任意適用事業については例外となります。

暫定任意適用事業

農林水産業のうち労働者数5人未満の個人事業については、労災保険の加入は経営者の判断による任意加入となっています。

給付を受けられる労働者とは?

労災保険の適用事業で働く労働者は、全て労災保険の保護対象です。
職種、雇用形態、雇用期間に関わらず、正社員・パート社員・アルバイト・嘱託・派遣労働者・外国人労働者など全て保護対象です。1日だけのバイトでも保護対象です。

特別加入制度

通常、社長や一人親方は労災保険の保護対象となりません。事業主は労基法上の労働者に該当しないためです。
しかし、中小企業では労働者と同じ危険な作業を行う社長も少なくなりません。このように業務の実態や災害の発生状況などから一般労働者と同様の実態にある事業主については、一定の条件を満たせば保険に入ることができる特別加入制度があります。

保険料は誰が支払う?

保険料は、全額を事業主が支払います。
労働者に支払う見込み賃金の総額に、業種ごとの保険率を乗じた金額を、その保険年度のはじめに申告納付します。

公務員は保護対象?

公務員は労災保険の保護対象ではありません。
国家公務員は国家公務員災害補償制度によって、地方公務員は地方公務員災害補償制度によって、労災保険と同様の補償を受けられるようになっています。

 

(参考文献※1、※2、※3、※4、※6、※7、※8、※9)

 

このページをシェアする

講習会をお探しですか?

 

▲ページ先頭へ