6.メンタルヘルス対策への理解
(1)メンタルヘルス対策を取り巻く環境について認識する
①中小企業が多く加入する協会けんぽ(全国健康保険協会)のまとめによると、4日以上の私傷による休業に給付される傷病手当金の支給原因のうち、うつや統合失調症、ストレス性障害を含む精神および行動の障害による給付が全体の3分の1以上を占める状況です。
(出典:全国健康保険協会「現金給付受給者状況調査(令和5年度))
一方、医療機関から保険者への入院療養費の請求でみると、精神および行動の障害の割合は、令和5年度の集計によると5.9%です。つまり、精神および行動の障害は自宅療養が主で、しかも休業になり易い、ということです。
(出典:令和5年度 医科医療費(電算処理分)の動向 厚生労働省)
②また、業務上の傷病に対して補償される、労働災害補償の請求件数でみても、精神障害の件数は増加傾向にあります。
令和5年度は請求件数、支給決定件数ともに過去最高となりました。
(出典:厚生労働省「令和5年度 精神障害に関する事案の労災補償状況」)
③さらに各都道府県労働局と労働基準監督署等に設置された総合労働相談コーナーによせられた相談内容のうち、民事上の個別労働関係紛争(労働関係に関するパワハラ等のトラブルの中で民事的な問題になり得るもの)内訳は、平成26年から10年連続で「いじめ・嫌がらせ」がトップとなっています。また、昨今は減少傾向にあるものの、パワハラ等による職場崩壊が進んでいることが心配されます。
(出典:厚生労働省「令和5年度個別労働紛争解決制度の施行状況」)
(2)公的な取り組み ―厚生労働省の方針―
国では、労働者のメンタルヘルス不調の未然防止を目的として、平成27年12月から、ストレスチェック制度が導入されました。
ただし、チェックによって不調状態がわかるのは本人だけとなっていますから、たとえ上司であっても、他人にその結果を知らせることは違法です。また、結果を本人から聞き出す、結果の提供に同意しないことを理由とした不利益取扱をすることも禁じられています。
※ストレスチェック制度の詳細は、次ページ「ストレスチェック制度とメンタルヘルス対策の具体的な進め方」にございます。
(3)メンタルヘルス不全の企業リスク
職場のメンバーがメンタルヘルス不調によって休職、退職してしまうことで、チームの仕事が滞る、人手不足になる、臨時の社員を手当するためにコストがかかることもあります。
また、長時間労働が発症の原因と疑われ労災を請求する、過度に負担の大きい仕事の配分等を原因として発症した、というとパワハラとして訴えを起こされるケースもあります。
どれも、管理者である上司や会社に少なからぬダメージをもたらすことになります。
部下や後輩の体調・病状も心配ですが、大きなトラブルにならないためにも、するべきことはする、誠意をもって対応することを心掛けてほしいところです。
①精神障害による損失
- メンタルヘルス不調の社員が休職した場合、人員の不足による他のメンバーの業務量が増えることで、残業代が発生
- 一時的に派遣社員や臨時の社員などでカバーする場合の人件費、教育にかかる経費(教育担当者の時間的負担を含む)
- 休職の場合、社会保険料の納付は継続(事業主と社員がほぼ折半)
- 退職の場合、新しい人材の確保に要する費用、教育費用、人件費など
- 休職、退職の場合の損失は休職者・退職者の年収の2倍近いという試算もある
- メンタルヘルス不調者が休職、退職することで職場の雰囲気が下がる
②労災、パワハラによる悪評
- 長時間労働がメンタルヘルス不調の原因となれば、「ブラック企業」と言われかねない
- 長時間労働やパワハラが疑われる企業は、労働基準監督署の監督指導の対象になる
- 「ブラック企業」のらく印がついてしまうと、企業価値が下がる
③訴訟
- 弁護士費用を含む訴訟費用や、会社や管理者に不利な判決が出た場合の損害賠償などの費用負担
- 訴訟には、事件名に会社の名前が付いて流布され、労働環境の整備等社内の改善が進んでも事件名がついて回る
リスクの芽を見逃さないためにも、普段から良好なコミュニケーションで、早い段階での対処が求められます。
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